バーチャルオフィスでなく税理士である自分の事務所を持つこだわり

インタビュー

ボクシングでプロデビューも果たした「戦う税理士先生」安川 隆浩氏に開業1年目のリアルについてお話を伺いました。

一般企業に勤めながら、大学院へ

【編集部】
本日は安川隆浩税理士事務所代表、安川隆浩先生にお越しいただきました。本日はよろしくお願いします。安川先生は今年の1月、2017年1月に独立開業され、開業1年目ということで、開業のリアルをお届けしていきたいと思っています。まずは安川先生の、税理士になるきっかけやプロフィールを伺ってもよろしいでしょうか。

【安川氏】
大学2年の時に生協で税理士の勉強のパンフレットを見つけ、暇だったのと将来への不安から、やってみようと思いました。実家の家業は空調の経営をしていますが、経理をしていた母の姿を見ていたのと、小学生のときに税務署が調査で自宅に来たのですが悪いイメージを持ったもので、自分は税務署ではなく、守る側のほうがいいなと思ったのもきっかけです。在学中に簿記と財務諸表論に合格したこともあり、卒業後は就職をせずに会計事務所でアルバイトをし、そこで勉強しました。そして消費税法に受かった翌年に、3科目合格の状態で別の会計事務所に一旦就職します。その会計事務所に勤務しながら、夜は資格学校のTACに通うよくある生活です。ただ、恥ずかしながら法人税法に5回続けて落ちてしまい、「もうやめよう」と思ったのが28~29の時です。ここまできて税理士になれないくらいなら、と試験を受け始めた頃は気乗りのしなかった大学院に行くことを決意しました。それに合わせて最悪、税理士になれなかったときのことも考え、一般企業の不動産会社の経理に入り、2年間、土日限定で大学院に通いながら勤めました。そして無事に卒業し資格も取れたので、また会計事務所で働き始めることに。それが32歳のときです。そこから2年ほど勤め、経験を積み現在開業に至っています。

【編集部】
資格を取って最初から独立を選ばずに、会計事務所にもう一度勤めようと思われたのですね。

【安川氏】
資格を取る前に勤めていた会計事務所は特殊な事務所で、当時流行っていた特別目的会社(SPC)、ペーパーカンパニーをよく扱う事務所でした。中小企業向けのサービスはほとんどなく、経験値が不足していたため、ワンクッション挟もうと思いました。ノウハウを身につけようというのが目的でした。

【編集部】
組織に所属している時と独立した後ではどのような違いがありますか?

【安川氏】
自意識の変化ですね。勤務時代はどの業種もそうだと思いますが、誰かが最後まとめてくれる、尻拭いをしてくれるという意識があったのですが、今は私しかいませんので、しっかりお客様に向き合おう、しっかりサービスをしようという自意識を持つようになりました。

【編集部】
組織で働いている時のお客様を、独立してもそのまま少しお手伝いさせていただいたりすることもあるのでしょうか?

【安川氏】
ありますね。仲の良いお客様には関しては特に、引き続きお手伝いをさせていただいております。

【編集部】
最初に事務所に所属していると、安川先生のご経験ではそういうこともできたということですね。実際に独立開業される前に準備したことはありますか?

【安川氏】
構える事務所、立地は大事だと思いますが、たまたま不動産会社にいたときの先輩のつながりで良い社長さまをご紹介をいただいた直後、その会社様の宅建主任者が辞めてしまったので代わりに自分が主任者登録をすることを条件に間借りさせていただくことになりました。千代田区の麹町駅近くといういい場所に事務所を構えることができたので、ラッキーでした。バーチャルオフィスを使っていらっしゃる方も多いですが、名刺を見ていい場所だと思っても、実際バーチャルオフィスだとお客様も不安に思うのではないかと思うので、その点では運が良かったです。

【編集部】
間借りということは固定費をお支払いしているのですか?

【安川氏】
実はサービスでお返しする形になっています。その会社の経理をやることで、もちつもたれつのような関係ですね。その会社様は年間50~60万は今の顧問税理士にお支払いということだったので、その金額もなくなるし、席の空きもあるしいいよという形でした。

【編集部】
宅建の資格を持っていなかったとしてもできそうですか?

【安川氏】
気前の良い方なので言っていただけたかもしれませんが、最悪この話が無かったら無かったで、どこかに事務所を構えていたのではないかなと思います。

【編集部】
では不動産でなくても、「顧問に入る代わりに場所を貸してください」という交渉はなさっていたかもしれませんね。

【安川氏】
そういった交渉はしていたと思います。やはり固定費を考えた時に、浮かせたいなとは当然思いますので、大事なことかと思います。

【編集部】
すごく良いことだと思いました。麹町でオフィスを借りようとしたら、そこの固定費はいくらするんだろうと…。

【安川氏】
10万を超えてくるのではないでしょうか。

【編集部】
一般的な企業に顧問に入って顧問料10万円もらえるなんてないですよね。そう考えるとお互いにとっていいと思います。他には開業する際に準備していたことはありますか? 

戦う税理士先生

【安川氏】
収入源は固定収入がメインになっていますので、前の事務所からのお客様の引き継ぎと新規顧客の獲得は重要だと思っていました。事務所がないので固定費は少ないのですが、それでも生活していかなければならないので、それをまかなえる売り上げは確保しておこうと。

【編集部】
そうしますと開業するにあたって見込み客を事前に種を蒔いて準備していたということですね。見込み客を作るにあたって意識されていたことはありますか?

【安川氏】
私はもともと営業には縁のない人生を歩んできましたので、試行錯誤で交流会に出たり飲み会に参加したりしていました。並行して、なるべく顔を覚えてもらおうという意図でネタ作りのためにやっていたボクシングの延長で、こっそり試合に出たりもしました。

【編集部】
結構本気でやっていらっしゃったんですね。

【安川氏】
不動産会社勤務当時は日の当たらない事務という職種をしていたので、ストレスも溜まっていまして。大学院と並行してやっていて、少し血迷った部分もあったのですが、30歳でプロデビューもできました。せわしなく生きてきた気がします。

【編集部】
くだらないおやじギャグですが、「事務は日が当たらないからジムへ行く」と…。

【安川氏】
その通りです(笑)。そこで勝てばスポットライトも当たったのですが、負けてしまったのでちょっとよろしくはなかったです。でも宣伝効果にはなりました。やはりチケットを買ってくださいと言うとみなさん来てくださいますので、そういう意味ではよかったです。価値はあったと思います。

【編集部】
「戦う税理士先生」はなかなか聞きませんね。

【安川氏】
ここで勝てればよかったんですけれどね。もう一回、今度はプロではないですが、おやじボクシングでもやろうかなと。

【編集部】
なかなかチャレンジしますね。

【安川氏】
宣伝が下手なので、なにで宣伝をしようかなというのは考えてしまいます。

【編集部】
それで自分のセルフブランディングのようなものをしていって、見込み客に見当をつけていったのですね。

【安川氏】
職種的にそこまでお客様の数がなくても、定期収入がメインですので20名いれば平均2万円として月40万円。最低これぐらい稼げれば、生きていけるという思いはありました。そういう意味では、前の事務所からの引き継ぎと温めていたお客様がいらっしゃったので、目途は立ったということです。

チーム作りが強化が課題

【編集部】
開業されてから今までで、どんなことがうまくいっていますか?

【安川氏】
お客様との関係はなお良好になった気がします。私自身の意識の差もあるのですが、月一で必ず訪問するようにしていますので、お客様とのコミュニケーションが取れて良くなりました。また、前の事務所では日報等の社内資料の作成に時間を取られていましたが、それをカットすることができ、他のことに時間を回せるので、お客様とのコミュニケーションという意味では良くなったと思います。

【編集部】
逆に、ここまでで失敗したことはありますか?

【安川氏】
1月に起業したのですぐに確定申告の期限が来たのですが、消費税の還付をしたいという太陽光設備を買ったお客様がいたのに申告を失念していました。還付なので最悪、期限後でも結果に大きな影響はないのですが、誰も期限を注意してくれない環境は危険だと思いました。自己管理はきちんとしなければならないと。

【編集部】
還付金の方でまだよかったですね。納める方だったら…。

【安川氏】
納める方だったら延滞税が付いてくるかもしれませんので、その分を負担しないといけませんね。期限後に適用されないもの、例えば贈与税ですが、住宅を買うときに親から資金援助を受けたので非課税の特例を使おうとしたときに、申告が間に合わないと使えなくなるのですが、そういうものだと大惨事になりますね。

【編集部】
今ではうまくいっていることとして、月一回お客様のところに出向いてしっかりとコミュニケーションを取りながら信頼関係を築きつつできていることですね。逆に失敗としては還付金の確定申告を忘れていたというものでしたが、今後どのように改善していこうとお考えですか?

【安川氏】
もともと顧客リストは作っていましたが、それ以来、絶対やらなければならないことはエクセルで管理するようになりました。わずかなところではありますが、リマインダーですね。

【編集部】
言ってくれる人がいないからこそ、自分に通知させる仕組みづくりをなさっているんですね。

【安川氏】
会社を出るときに、いついつ前回訪問したということと、やらなければいけないことを日報の代わりにつけるようにしています。

【ミカタ編集部】
もう一度今の経験や知識がある状態で開業前に戻ったとしたら、こういう準備を付け足す、こんな風に取り組むなどという思いはありますか?

【安川氏】
途中経過としては今のところそこそこだと思いますが、協力者をもう少し作っておけばよかったとも思います。同じ業種であっても補える存在という意味ですが、私は相続に弱いので、相続に長けている人や、組織再編などの金額の大きな案件に強い人が仲間にいると良かったですね。今回たまたま不動産関係の知人から10億円程度の太陽光設備を売却する案件を紹介され、特別目的会社を活用して転売するというスキームを提案・採用してもらいました。その中で組織再編の知識が必要になったのですが、私には経験がなかったので、コンサルをメインでやっている事務所の仲間がいたらスムーズに事が運んだのではないかと思います。結局、スキームの安全性を考えて外部の会計士に意見を仰ぐような形になってしまいましたが、身近に頼れる仲間がいたらコストもかからずよかったです。

【ミカタ編集部】
具体的にどういった協力者がいると心強いですか?

【安川氏】
同業であれば、私にない柱を持っている人です。相続、医療、M&Aなどの知識がある人がいればよいですね。他業種でいえば相性がいいのは司法書士や社労士で、動きが速い方がいたらとても助かります。交流会に出ているときにいろいろな方とお会いしたので顔は浮かびますが、実際仕事まで一緒にできた方は少なかったので、もっとコミュニケーションを取っておけばなおよかったなと思います。

【編集部】
今そういう方はもう見つかっていらっしゃるのですか?それともまだ探し中ですか?

【安川氏】
紹介で使わせていただいている司法書士や社労士はいますが、他にもいたらいいな、というのが正直なところです。

【編集部】
よりお客さんに役立つためのチーム作りを強化していきたいということですね。

【安川氏】
私自身が少し緩い感じで生きているので、同じ肌感を持った司法書士と社労士がいいです。両者とも堅い方が多いイメージですね。例えば以前にあったことでいうと、法人の設立等の登記申請前に必ず面談しなければならないという司法書士がいました。義務だとは思いますが、依頼主の時間を取ることにもなるので「今回はいいよ」というような融通を利かせてくれるとうれしかったです。

【編集部】
確かにお互いに協力関係を持てる人がいると、その人からお仕事が来たり、自分の思いがけないところからお仕事が来たりするので、チーム作りができると強いですね。

【安川氏】
他業種をいろいろ抱えてグループでやっていらっしゃる方のお話も聞きますが、何があってもグループ内で処理できるといったそういう強みは羨ましいです。一人は楽ですが、私一人では処理できないことに直面した時は困りますし。

【編集部】
安川先生は今年開業されて、大先輩の方はたくさんいらっしゃると思いますし、今後AIも発達してきます。その中で勝ち抜いていくために、1年目の安川先生から見て、何が必要だと思いますか?

【安川氏】
難しい問いかけですね。古いものに固執するきらいがある職種だと思いますが、サービス業ですので、廃れていくものは捨てていく、例えば自分はクラウド会計を絶対に使わない、などと言わずに、お客様にとって最善な使いやすいツールを採用したり、多くの会計事務所ではあまりやりたがらない補助金申請なども柔軟に扱うのが大事ではないかと思います。私も各種申請ができるように経営革新等支援機関の認定も受けました。

【編集部】
どういう付加価値を付けられるかですね。機械にできることは機械にやってもらって、それによって自分に時間ができますから。

【安川氏】
その時間をどう充てていくかですよね。今税理士としての専売特許で他人の申告の代理をやっていますが、ライフプランニングの面でいくと保険や不動産関係の方でもアドバイスできることに変わりはないので、提案にはあまり差がなくなってくるかもしれません。ですので、その時々何が出てくるかはわかりませんが、お客様にとって最善のものを業種というくくりを超えて取り入れていく必要があるのではないでしょうか。

今後のビジョン

【編集部】
ありがとうございます。それでは、今後安川先生が目標としていることをお聞きしてもよろしいでしょうか。

【安川氏】
まずは部下を作ることです。社長と呼ばれてみたいですね。今も代表といえば代表ですが呼ばれることはありませんから(笑)。居酒屋へ行くと冗談交じりで呼ばれたりもしますが、直接の部下が欲しいです。利益を上げるためにも組織作りですね。人を管理して売上を増やさないと限界がありますし。一回で稼げるような単価のお仕事でもないので、大人数で補っていかなければいけないと感じています。そういう意味では組織は大事だと思っています。

【編集部】
最後に、この記事を読んでいる方に、成長や学びにつながるメッセージをなにかお願いします。

【安川氏】
個人事業主になるにあたって多少の準備をしていたとはいえ、不安なところもありました。でもひとりになっても案外あっさり生きていけていますし、まずは「やってみな」というところでしょうか。なかなか日の目を浴びない裏方の業務をずっとやってきましたので、収入も思ったようには伸びず苦しかったですが、今は楽しいです。自分で請求した分が自分の裁量で配分できるというところは非常に楽しく思っています。相続、医療と経験の不足はありますが、それを理由に事務所に居続けていたとすると、今は多分楽しくなかったと思います。同じ環境に長年居ても同じ業務が基本ですから期待するほど様々な経験も積めないと思いますし、片や経験を積むために転職したとしてもまたゼロからのスタートなので、そこは思い切って飛び出して自力で相続なり医療なりを勉強して、お客様に迷惑をかけないよう注意しながら実践していけばいいと思います。

【編集部】
確かにむしろやってみて気づくことは多いですね。わからないことがわかる、みたいな。

【安川氏】
実際、相続の申告はこれまでの事務所では行ったことがなかったのですが、一件、紹介でいただきまして、わざわざ申告先の税務署に行って、「この計算で問題ないですか?」と事前照会をした上で申告しました。できなくはなかったので、楽観的なのでしょうけど、ある程度は経験がない業務でもこなせるかな、と自信がつきました。

【編集部】
貴重なお話をありがとうございました。本日は安川隆浩税理士事務所代表、安川隆浩先生にお越しいただきました。

 

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