営業から新たなビジネスモデルに転換する弁護士

インタビュー

現在、AIを活用したクラウドサービスがリリースされ、多くの技術革新が起こっています。 こういった技術革新が起こると、士業の仕事スタイルは大きく変わります。 「世の中から紛争裁判をなくす」という理念を実現するために、弁護士事務所からAI開発に乗り出した笹原健太氏にお話を伺いました。

【編集部】
本日は、弁護士法人PRESIDENT赤坂溜池山王法律事務所代表の笹原弁護士にお越しいただけました。本日はよろしくお願いいたします。今日は株式会社ウェイビー代表伊藤との対談という形でお送りさせていただいております。

弁護士になっても世界に出たい

【編集部:伊藤】
日経新聞にも掲載されていた、契約書のクラウドのサービスをリリースされたということでしたが、いつごろから考案されていて、出そうと思った理由は何だったのでしょうか。
※サービス詳細 https://www.legsea.co.jp/index.html
【笹原】
交通事故事業をやっていたときに、2年目くらいだったと思うのですが、グーグルのエリックシュミットが書いた「グーグルワークス」という本を読んでいて、最後の方に「あなたの事業をプラットフォーム化できないだろうか」「あなたの事業を誰かがプラットフォーム化したときにあなたはどうなるだろうか」という問いのようなものがあったんです。そこでふと考えて、その時は基準が低く、プラットフォームというとポータルのようなイメージがどうしてもあったので、「交通事故をポータル化したらどうなるんだろう」と思って動き始めました。
動き始める中で「紛争裁判をなくす」という原点に立ち返ったときに、もっとそちらの方向でプラットフォームを作れないかとも思いました。ちょうど弁護士ドットコムの「クラウドサイン」というものが出ていて、自分がシリコンバレーにいたんですよ。サンフランシスコの空港でその新聞記事を見て、ちょろちょろっとポータルを作ろうとしていた自分を恥じてしまいました。あそして、やはり「紛争がなぜ起きるのか」ということを考えた時に、訴訟になっている案件って契約書を作っていないことがあるんですね、じゃあ契約書をもっと作れたら紛争はなくなるのではないかと考えた時に、ハードルを感じるのは締結ではなく作成ではないかな、と思って「作成と締結」というのを考えました。それが大体2年前くらいです。エンジニアがいなかったので外注していたんですけれどうまくいかなかったりして、ようやく今リリースという感じです。
【編集部:伊藤】
では構想からリリースまで2年くらいということですね。日経でリリースの記事を拝見したのですが、大体100種くらいひな型からライセンスや秘密保持などの契約書を月額980円で作成できるんですよね。今後はどのように考えているんですか?
【笹原】
今後もちろんテンプレートは増やしていきます。例えば会社法関係とか、労務関係、あとは企業が実際に使っている契約書をテンプレート化するとか。人の名前や数字が変わるだけの契約書もたくさんあると思うので、テンプレート化できれば3分で契約締結のメール送信が可能になりますね。あとはセキュリティーです。本人確認性をもっと高めていこうと思っています。
【編集部:伊藤】
とても気になっているんですが、なぜ弁護士になられて、事務所はとてもうまくいっているのに、こういう新しいサービスを作ろうと思われるのかなと、一応テーマが弁護士という資格を破壊して創造する、というものなのですが、それを体現されているじゃないですか。例えば先日アメリカに行ったと仰っていましたがわざわざアメリカに行く弁護士さんって日本でほとんどいないでしょうし、なぜ行こうと思われるのか、そのあたりをお話しいただきたいです。
【笹原】
本当に僕は孫正義と坂本龍馬が心から大好きで、とにかく世界に出たいと思っていたんですが、自分のその思いに気づいたのが弁護士になってからだったので、弁護士になっても世界に出たかったんですね。弁護士で世界に出ている人って日本では正直いないと思っていて、留学する人、資格を取る人はいるんですが、向こうでやっている人はいないんですね。仮にやっていても、アメリカの弁護士なだけで、国際弁護士ではないんです。複数の国の法律を学べるほど楽ではないし、法律相談の中でも文化慣習が必ず出てくるので、そこまで理解するのはほぼ無理です。そうなると二つの国以上にまたがってやっている人ってほぼいません。そう考えると弁護士では世界に出ることが出来ないな、という思いもあります。AIという黒船が到来したと僕は思っているので、この黒船に乗れば世界に出られるんじゃないかなと坂本龍馬みたいな発想で、世界がどうなっているのか見たいなと思ったからです。
アメリカに行ってわかったのが、リーガルテクノロジーはいろいろな分野があるのですが、一つ電子規約の分野というのが世界的にあって、3000億くらいの市場があると言われています。そこを僕なりに分析すると、向こうはサイン文化なんですが日本はハンコという文化があるので、世界は日本に来れないんじゃないかな、と思ったんです。なので今後は、ハンコのイメージにどう近づけるかということを考えていきたいと思っています。今はまだそこまでではないんですが、電子実印の登録制度などを開発していくと。

儲けるだけなら弁護士はまず営業!

【編集部:伊藤】
もう一度ゼロから弁護士事務所を登録して開業するとしたら、なにをしますか。4年の経験を持った上でということなんですが。
【笹原】
僕だったら今と同じ交通事故の事業は必ずやりますね。
【編集部:伊藤】
業務でなくても構わないので、4年経った今だからこそわかる、「こういう考え方や気持ちを最初に持って、こういうところに行きますよね」といったものはありますか。
【笹原】
僕の持論なんですが、弁護士は、裕福な暮らしをしたいだけだったら営業の勉強一辺倒でいいと思います。士業同士の勉強会には参加しなくていいので、とにかく営業を教えてくれる人に学ぶ。弁護士は営業が得意でない人が多いので、少し出来るだけで相対的に上にいけます。

変化する士業界

【編集部:伊藤】
ありがとうございます。笹原さんは弁護士としてご活躍になり、今はIT企業の経営者で世界を見ていらっしゃいます。僕自身は詳しくないのですが、僕の会社もAIの開発をやっています。士業という業界もAIに淘汰される業界だとマクロで言われていますが、実際にIT企業と弁護士という、淘汰する側、される側の両方に立たれている方は珍しいと思います。そのような両方の視点を持つ笹原さんは、実際のところ士業という業界の今後についてどうお考えですか。
【笹原】
オックスフォード大学の研究で、士業の中で弁護士は代替率20パーセントくらいと言われていて、なくなりにくいとは思います。実際の訴訟の業務があるというのと、人の感情の共感を得て、人から受任をもらうという法律相談的なところが短期的にはAIには代替不可能かと思うので。ただ、税理士や会計士はほぼなくなると思います。社労士もかなり怪しいのではないでしょうか。今は、スマートHRとかも出てきているので。
【編集部:伊藤】
最近CMもやっていますね。やはり定型化できてしまうものは代替されていく、ということでしょうか。
【笹原】
そうですね。人のコミュニケーションが絡まずに、代わりに何かを作成する仕事は結構AIに取って代わられてしまうと思いますね。弁護士は訴訟を生業にしてきたので、研修所の教育もすべて「訴訟ができるように」ということに9割5分の時間を費やしています。しかし日本において訴訟は損害をゼロに戻すところまでしかいかないので、訴額に限界があるんですね。そして弁護士が受け取れるのはそのうちの何割かです。世界的に見て、弁護士業界が肥大化したのは、損害ではなくMAというプラスのことを仕事にし始めてからです。MAとかファイナンスという、企業の未来を見る業務です。そこで生まれたのがタイムチャージという概念ですね。調査に対して(何十人の弁護士)×(単価何万円)×(所要時間)で請求を出すと、1つの案件で何億というフィーが入ってくる。訴訟では訴額が100億くらいないと無理で、なかなかそんな訴訟はありません。この通り、弁護士は単価が高くて時間がかかる案件の方がフィーが入るんです。でも、AIの時代になると時間がとても節約できます。1秒間で2億ページ読めるので。効率ってAIとの親和性がとても高いと言われていますしね。そうなるとタイムチャージという概念が崩れてくるのではないかと僕は考えています。
【編集部:伊藤】
スケール感は違いますが僕も士業の先生方に同じようなことを言っていて、今って本当に、強いところを覆すチャンスが一気に来ていますよね。お客様には、海外事業強化のために4大事務所にユニクロの海外執行役員、リクルートの執行役員級が入る動きがあるという話をしました。大きい事務所ではなく、一人の先生にこの話をするんです。「リクルートに行くような人を採用したほうがいい」と。さきほど一点突破で営業を勉強したほうがいいというお話がありましたが、まったく一緒で、事務所を大きくするためには役割を分けたほうがいいです。士業の先生は基本的に、二人目の採用で自分の時間を浮かせるために事務作業を行うアルバイトを雇う人が多いのですが、事務所を大きくしたいならやはりリクルートに行くような人を雇った方がいいと思います。僕のお客様で実際にリクルートの営業の方をナンバーツーとして雇用した事務所は、3年で売り上げが1億ちょっとまで伸びています。ナンバーツーが実質稼ぎ頭になっていますね。このようにしていくと、組織体として全然別のものが出来上がっていくんです。今は4大事務所もようやく普通の会社のように見立て始めていたり、変わり始める潮目ですね。事務所作りはこれからすごく変わってくると思います。
【笹原】
僕はまさに、個人事務所や中小事務所がその動きをするのがアリだと思います。大規模事務所は失敗すると思います。なぜかというと、弁護士事務所はパートナー制度をとっているので、弁護士は営業、つまり受任をしてから、報酬をもらうまで一人で完結します。規模は大きくしたいけれど稼いだ分は他人にはあげたくない、という妥協の産物がパートナー制度なんですね。でも時価総額の高い株式会社にパートナー制の会社は並びません。今最適なのは株式会社だと思いますね。パートナー制は結局自分の財布からお金を出すので、採用と教育と未来投資に対するインセンティブがほぼない。「今稼げる人」が欲しいので、そこに投資するならいいけれども、5年後ここにいるかわからない人になぜ自分がお金を出さなければならないのか、とみんな思うんです。
あるニューヨークの事務所の日本人パートナーはロースクールの1年生のときの成績で採用の判断をする。採用してから優秀でないとわかったときにパートナー間での責任が取れないからだそうです。人を見極めて採用する気がありません。そうなると組織化は無理ですね。リクルートで社長になれなかった人を連れてきても。日経新聞にも出ていましたが、西村あさひ法律事務所のスーパーエースの岩倉正和弁護士が西村あさひ法律事務所からTMI総合法律事務所に移りました。その原因は代表の西村が組織化を進めて、居心地が悪くなったからと言われています。今まで売上が発言権だったのが、そうではなくなった。売上を上げているのは自分なのに、なぜそこまで売上のない弁護士が発言権を大きくしているのか、と。裏事情はわかりませんが、パートナー制で組織化は無理なのではないかと思います。
【編集部:伊藤】
組織化を進める中で大切なポイントって、笹原さんのお話は弁護士がどうこうの話だけではなくて、全部の論拠みたいなところが、例えば孫さんとか、資本主義は「いいものが残る」という前提でその中で株式会社が生き残っていて、その株式会社のトップ層がどのようにしているのかという視点ですよね。その視点は誰も持っていない。
【笹原】
結局事務所のトップがパートナーなので、営業できることが最善なんです。
【編集部:伊藤】
勉強になります。やはりその視点を持って、世の中で何が起きているのか、何が良いのかということを参考にしながら事務所経営をやっていかないといけないと思います。僕もお客様に、士業事務所は弱いもの同士が仲間意識を持ってしまうことが多いですが、強いものとかかわりを持たなければだめだとひたすら言っています。

士業事務所の未来について

【編集部:伊藤】
最後に、「新しい時代を作っていくような先生とは」「士業事務所の未来はどうあるべきか」というお話をしていただけたらありがたいです。
【笹原】
専門領域の追求とか、完璧なものを目指すのは4大事務所には勝てないと思います。だから、『イノベーションのジレンマ』じゃないですけれども、法律相談の機会もありませんという層に対してサービスを提供していくようなかたちが新しい時代を作っていくのではないかと思います。自分のできる枠を超えて、そのような人たちに手段を提供できるようなかたちですかね。
【編集部:伊藤】
川上の領域というのは、人数や頭脳の面で大きな事務所の方がクオリティの高いものを作りやすいですよね。個人事務所や中小事務所ができるのは、川下の領域。お客さんの中で全然サービスを使いこなせていない方たちにむけてアイディアを出していくとか、資格での問題解決に縛られるのではなく、どうやってお客さんに知ってもらうかだったり、どのようなしくみを作るかだったりを考えていくべきですね。
【笹原】
月間で数千万の広告費をかけている大手事務所もあるくらいで、広告はほぼ飽和しているので、そんなところとは戦えません。4大事務所は仕事に対する基準が高いので、クオリティで勝つのも難しい。ある大手の弁護士事務所は弁護士の中で批判されがちですが、彼らが取り返した過払い金、救った人は本当にたくさんいます。「弁護士」という資格を見るのではなく、「ビジネス」を見たらいいと思いますね。
【編集部:伊藤】
弁護士は手段であって、僕の専門のマーケティングでいうと価値変化のところで、お客さんがこの人に相談するとこうなりますよ、といった変化を強く印象付けることが大切ですね。最後にPRがあればお願いします。
【笹原】
先ほど話したスケールの話で、労働集約型なので単価を高くするとスケールが出ないけれど収益を上げたい、というところで、うちのサービスは契約書の作成にかかる時間を削減できます。月額980円の「ホームズ」というシステムなんですけれども、作った契約書のチェック無制限といったアライアンスの組み方などもできます。テンプレートで作った契約書に少し修正を加える必要もありますし、士業には恩を感じているので、仕事を生み出せるといいなと思っています。
【編集部:伊藤】
僕も士業の役割は大きいと思っていて、少し変わるだけで存在価値が大きくなると考えています。そこの嗅覚を持っていただけたらいいと思います。今日は本当に面白い話をありがとうございました。
【笹原】
ありがとうございました。
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